第60章 慕情 ※
「……マシューがサッシュを気にする素振りを見せないかどうかも、ケイジに見張らせよう。それから―――――君は引き続きリンファを介してなにかサッシュから聞き出せそうにないか試みてくれ。私はナイルに――――――、憲兵団に少し探りを入れてみよう。」
「はい、承知しました。宜しくお願いします。」
そのやりとりを終えると、エルヴィン団長が翌月に控える壁外調査の隊編成の図案をばさ、と置いて伸びをした。
「コーヒーをもう一杯お持ちしましょうか?それとも、もうあと少しでお休みになるなら、ハーブティーでも。」
「ああ…………いや、まだ仕事が残ってるからな……コーヒーを淹れてくれるか。」
「はい。」
ここ最近エルヴィン団長はなかなかお疲れの様子だ。
私にできることは知れていて、いつもより丁寧に、コーヒーを淹れることくらいしかできなくてもどかしい。
コーヒーをエルヴィン団長の手元に置いた時に、その隣にある自室へつながる扉の、リヴァイ兵士長が蹴破ったらしい穴に目がいった。応急処置だけが施されていて、本格的に扉を入れ替えるのは壁外調査が終わってからにするらしい。
「―――――扉の修理費、結構かかりそうですね……。」
「そうなんだ。まったく………困った兵士長だよ。」
私はくすっと笑った。
「荒療治、ってやつですか?」
「―――――気付いていたのか、大層怒られたよ。」
エルヴィン団長もふふ、と自虐気味に笑った。
「君にも謝らなくてはいけない。」
「??何をですか?」
「君がリヴァイに手紙の事を漏らしたんじゃないかと、試すような事をしたことを。」
団長の机の傍らに立つ私を座ったまま見上げて、私の手を軽く握ってエルヴィン団長は言った。
「信じていないわけじゃないんだ。だが、私の行動でそう思わせてしまったなら、すまなかった。」
「―――――はい。あの時も謝ってくださいました。気にしていませんよ。」
私は小さく微笑みを返す。
リヴァイ兵士長が言いたかったこと、伝えたかったことはちゃんとエルヴィン団長に届いている。それがわかった。
エルヴィン団長は私の表情を見て安心したように少し微笑んでから、ほんの少し口角を上げた。