第59章 伝播
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団長室の扉はもちろん施錠していた。
しかし何者かに無理矢理壊されて侵入を許していた。更に続く私の私室の扉も破られているようだ。団長室は一切荒らされておらず、目的のものが私の私室にあることを理解して犯行に及んでいることが明白だった。
――――――違和感だらけだ。
足早に私室に入ると、鍵をかけていたはずの木製の棚も鍵もろともに見事に破壊され、その中の――――――
ナナから預かっていた書物が全て、消えていた。
「エルヴィンのその顔―――――――……今度は、茶番じゃないみたいだね………。」
不穏な空気の中ハンジが呟き、リヴァイとミケは腕を組んだまま私を見ていた。
ナナは―――――思い出を失ったかのように、その場に立ち尽くしていた。
「―――――誰も、怪しい人物を見ていないのか?」
私の問に、ハンジが目を伏せた。
「―――――見てねぇよ。訓練から帰って来たらこのザマだ。」
「――――ああ、俺もだ。」
「そうか………。」
俯いていたハンジが、顔を上げて私に問いかける。
「――――ねぇエルヴィン、何が、盗られたの……?施錠するほど大事にしていて――――――ナナがここまで打ちひしがれるものは、なんなの………?」
ナナが、ぴく、と反応して、申し訳なさそうに肩をすくめた。その瞳は、いまだ受け入れられないと言った様子で酷く悲しそうだ。
「―――――………。」
「そっか、やっぱり言わないんだね………。」
ハンジが悲しそうに目線を落とした。
その一言で確信した。
「―――――リヴァイ、お前が持っているんだろう。出せ。」
私の言葉に、一同が揃って目を開いた。