第59章 伝播
「―――――ナナ。」
「なんですか。」
「照れてるのか?」
「!!そんな、こと……。」
目を見れなくて逸らすけれど、エルヴィン団長は私の顎に指を添えて自分のほうへと視線を向けさせようとする。
「悪態をついて早く“団長と補佐官”に戻ろうとしているだろう。」
「………っ………。」
「―――――まだだよ。」
「―――――!」
唇が触れたかと思った矢先、簡単にその大きな身体に組み敷かれる。舌の侵入角度を変えながら甘く舌を絡めとり、私の息を弾ませる。息を継ぐための僅かな隙をついて、エルヴィン団長の唇からなんとか逃げ出した。
「~~~~~っ……ぁ、あの、もう、発たないと……っ………!」
「別にいい。大雨で橋が決壊してしまって迂回していたことにすれば、帰着が遅れても問題ない。」
「…………??雨なんて、降ってな………。」
雨なんてここ数日降っていないし、なぜそんなとんちんかんで具体的な例を出すんだろう――――――と不思議に思っていると、エルヴィン団長は目を細めて意地悪な笑みを向けた。その意味するところを回想すると、私も思い出した。
リヴァイさんがついた、あの嘘を。
「――――――っっっ!!!!知ってたんですか…………?!」
「さぁ、何をかな。」
「――――まさかそんな前のことまで覚えてるなんて―――――――いじわる!!!!」
顔を赤くして怒ると、少年のように笑いながら私を捕らえて、胸に顔を埋めるように強く強く抱きしめた。