第59章 伝播
「――――――私は、どうかしてるのかな………。」
美しい金髪をさら、と撫でていると、その言葉は零れ出た。
「―――――ん………。」
もぞ、とエルヴィン団長が動いて、ゆっくりとその蒼い目が開く。
ああ、綺麗だ。
「――――おはようございます。」
「――――ああ、おはよう。」
「よく眠れましたか?私がいたので……邪魔じゃなかったですか。」
申し訳ない気持ちで問いかけたのだが、エルヴィン団長は柔らかく笑って私を強く抱きしめた。
「―――――眠る時に惚れた女性が腕の中にいて、嫌がる男はいないよ。」
「そんな……また………甘い言葉で私を丸め込む気ですか?」
「―――――いや、俺は今初めて経験する喜びを噛みしめている。」
「え?」
「――――女性を抱いても、そのまま朝まで眠ったことはないな。気が休まらなくてね。」
その言葉に目を丸くして蒼い瞳を覗き込んだ。
「目を開いて一番最初に見たのが朝日を背にした君だったから――――――女神かと思った。」
ふっと笑って私の髪に指を通す。
どんな反応をしていいか分からず、悪態をつくことでその場をやり過ごそうと試みた。
「………エルヴィン団長は女たらしです。」
「ひどいな、本心だ。」
「そんな甘い言葉の裏で、『今度から王都招集の宿泊費が一室分浮くな』とか、考えてるんでしょう、どうせ。」
「ははは、バレたか。」
「いいですよ別に。私だってエルヴィン団長のこと、『寒い日でも温かく眠れるな』くらいに思っておきますから。」