第59章 伝播
エルヴィン団長の手は、その人柄を象徴するかのように大きくて、温かい。
調査兵団に入団して初めて握手を交わした時、そう感じた。この人の役に立ちたいと思い続けてきた。
まるで運命かのようにワーナーさんとエルヴィン団長のお父様が同志であったことが判明し、更には思いがけず異性としての愛情まで伴って私を見つめてくれるようになった。
―――――そして今、私の横で安らかな寝息を立てている。
ああそうだ、昨晩ついに身体を繋げたんだ。
いつも崩さない余裕の笑みの下で、彼が何を考えているのか。どんな重責を負って、何が怖いのか。
まだまだ知らないことだらけだけれど、唯一全てを曝け出せる存在だと言ってくれるなら―――――――私はそれを受け止めて、癒して、包み込めるようになりたい。
愛とは不思議だ。
調査兵団に来てから知ったこと。
こんなにも沢山の愛の種類があるということ。
アルルやリンファ、サッシュさんやハンジさん、ミケさん……彼らに抱く愛、お父様やお母様、ロイやハルに抱く愛、リヴァイさんに抱く愛、エルヴィン団長に抱く愛はまるで違うもので出来ているみたいだ。
『愛しているのはあなただけ』というセリフをなにかの小説で読んだことがある。当時の私はそれがとても煌めいたものに見えたけれど、今の私には到底言えそうもない。
エルヴィン団長を慈しんで、同じ物を見て、寄り添い、共に歩みたい。
その気持ちは、例え世界がどうなろうとあなたさえいてくれたら他に何も要らないと、リヴァイさんに募らせたあまりに激しい熱情とはまるで正反対のようだ。
こんなことは誰に言っても理解されないだろうけれど、抗えない事実だ。
ならせめて私だけは私のことを認めよう。
私は二人をそれぞれ違う形の愛で、愛している。
リヴァイさんへの激情は、決して消えることはないから――――――
この胸に宿したまま、死ねたらいい。