第5章 絶望
「もう一つは、こいつは兵士の和を乱す。昨日一瞬こいつを連れて廊下を歩いただけで、盛った野郎共は大騒ぎだ。いつか問題が起こるぞ。その目立つ白銀の長い髪と相手を映す大きな眼。てめぇは鏡を見たことがねぇのか。」
「鏡くらい見てますっ!それに、兵士の方々をそんな言い方をするのは失礼だと……!私のことなど、勇猛果敢な彼らにとっては、いち兵士でしかないでしょう。」
「………兵士長の言うこともわからなくはないな。」
「そんな………。」
「なら、それらの問題をクリアすれば良い。………私の専属補佐として配属しよう。」
エルヴィン団長が、今まで見たことのないような笑顔で笑った。リヴァイ兵士長は、こめかみに青筋が見えるほどにお怒りの様子でエルヴィン団長を睨む。
「まずは私の専属補佐として執務を中心にこなしながら、医療班編成にも力を貸してもらうとしよう。確かに訓練兵としての歳月を経験しないまま入団する君には、戦闘に対する訓練は厳しいだろう。だが、私の専属補佐兼医療班であれば壁外遠征でも戦闘に当たることは少ない。最低限の立体機動を習得し、巨人を狩るのではなく、自分の身を守るための訓練を中心に受けてもらおう。戦闘訓練の時間は、医療班編成の時間に費やせば効率も良い。」
「おい待てエルヴィン。」
「私の専属であれば、他の兵士から手を出される心配も皆無だと思うが……どうかな、兵士長?」
「てめぇ………!」
「それとも、彼女を私に預けたくない理由が、他にあるのか?」
「………っ………!」
リヴァイ兵士長が、エルヴィン団長の胸元を掴んだ。しかしエルヴィン団長は全く動じない。
「私は彼女が欲しい。お前はどうだ?」
「あいつを守るのは………俺の役目だって………言ってんだろうが………!」
二人は張り詰めた空気の中、小さな声で言葉を交わした。私には、何を言っているのは聞こえなかった。