第1章 出会
瞳を輝かせてウキウキとするロイとは対照的に、私は冷めた笑顔が貼りつくのを感じた。その表情を見てか、ハルはわざと話題を変えた。
「そうでした、お嬢様。ご友人に差し上げたい、と仰っていた紅茶に合う焼き菓子、買っておきましたわ。」
「ああ!!ありがとう!!ちょうど今日、その子に会うつもりだったの!」
満面の笑みをハルに向けると、ハルは少し切なげな目で私を見た。
「朝食が済んだら出かけるわ!」
「えっ、姉さん、せっかくお父様が帰って来るのに…出かけてしまうの?」
「………どうしても外せない約束なの。昼食の時間には戻るわ。ハル、お父様には……」
「歌のお稽古……ですか?」
ハルは、はぁ、とため息をついた。
「さすがハルね!」
私は満面の笑みを向けた。
私はいつもの洋服よりも少し質素に見える無地の服を着て、いつもと変わりない朝食をとった。パンとスープにハム、そして紅茶。
母は食事を作るということをしなかったが、紅茶だけは毎朝私に淹れてくれた。私にとって紅茶は母の味だ。
「姉さん、よく飽きもせずに紅茶を飲むね。僕はあまり好きになれないよ。」
ロイはパンをほおばりながら、私の方をチラリと見た。彼はほとんど母の事を覚えていない。もうニ年も前。
彼が五歳になった頃に、母は出て行った。当時私は八歳、あの時のことは小さいながらに、今でもよく覚えている。