第1章 1章―夏祭り―
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目を開けるとそこには見慣れた景色が広がる。
妖魔界にある自分の家付近だ。
「さやか、今日は本当にサンキューな」
『私も楽しかった。ありがとう、エンマ…大王様』
危ない。
ぬらりひょん様の前で呼び捨てにするところだった。
『大王様、この浴衣大切にします。では…』
「あぁ」
優しく微笑むさやかの手を名残惜しそうに離した。
その時のエンマの寂しそうな顔にさやかは胸が締め付けられた。
エンマもこんな表情するんだ…。
ぬらりひょんにも一礼し、さやかは自宅へと向かった。
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さやかの後ろ姿が見えなくなると同時に
「大王様、破廉恥ですね」
ぬらりひょんの唐突な発言に振り返り目を丸くするエンマ。
「な…//何がだよ!」
「さやかに浴衣を贈ったのですよね?」
「ああ、すげぇ似合ってたから…な//」
それのどこが破廉恥なのか。
頭をフルに回転させても……答えはでない…。
「人間界の古い記録によりますと、女性へ着物を贈ることは求婚になるのだとか」
「そ、そうなのか…」
それなら良い意味では?
更に理解できなくなってきた…。
「ええ、更に諸説ありますが
その着物を着た女性を“脱がせたい”という意味もあったようですよ」
「んな!?//」
エンマは一気に耳まで真っ赤になった。
とんでもない意味付けをしてくれたな、人間よ。
しかし、ぬらりも何故そんなこと知ってるんだ。
一体いつの記録を読んだのか…それは聞かないでおこう。
「しかし、さやかを見るかぎり何も知らないようでしたので、大丈夫でしょう」
「そうか。不快な思いをさせてなければそれでいい」
「フフフ、これからは贈り物はよく考えなければいけませんよ、大王様」
「そうだな…//」
いい勉強になった。変な意味で。