第3章 家族の絆ー後編ー
あれから3日経ち、無事退院することになった。
家族みんなで迎えに来てくれるらしく、桜は少ない荷物をまとめて待っている。
あの日…桜が暴走車に轢かれそうになった時、無意識に体が動いたようで車と接触することはなかったが、バランスを崩して頭を打ったらしい。
頭を打つ以外どこも怪我はしておらず、目が覚めた後の検査でも特に異常は見られなかった。
千寿郎の様子から、長い間意識不明だったのだろうかと不安になったが、実際は三日間眠っていただけらしい。
ただ、頭を強く打っていたので医者からはいつ目覚めるか分からないと言われていたとか。
心配かけて申し訳ないとは思うが、頭を強く打ったおかげで前世の記憶が戻ったのかもしれないと思うと、まあ結果的には良かった…のだろう。
「姉上!」
物思いに耽っていると、病室の扉が開かれ千寿郎が入ってきた。父上や杏寿郎と同じ顔なのにこの可愛さは何なんだと改めて思う。
「姉上、どうかしましたか?」
首を傾げて見上げるように見てくるその姿に、思わずギュッと抱きしめてしまったのは仕方がない。
「あ、あああ姉上!?」
「可愛いなぁ、千寿郎は」
むふふ、と冨岡さんのような笑みを浮かべていると、千寿郎が困ったように「それだと父上や兄上も可愛いってことになるのでは…」と呟いた。
「んー?父上と杏寿郎は別に可愛くないよ」
まじまじと千寿郎の顔を見つめると、「は、恥ずかしいです」と顔を真っ赤にして俯いてしまった。
そんな弟を見て桜はニッコリと綺麗な笑みを浮かべる。
「あの二人はカッコいいって言葉の方が当てはまると思うの。…千寿郎もあと数年したら“可愛い”から“カッコいい”に変わるんだろうね」
綺麗な笑みから少し悲しい表情に変わる。
“あの時”は千寿郎の成長を見守ることができなかったけれど、今度はちゃんと見守ることができる。
父上は酒に溺れていないし、母上も生きている。
夢に描いた日常が時を超えて叶ったんだなぁと思うと、鬼と戦い、命をかけて散って行った人たちは決して無駄じゃなかった。
「姉上?」
心配そうに上目遣いで見る千寿郎の頭をポンポンと撫でて不安を取り除く。そしてニッコリと笑ってこう言った。
「“あの時”の約束、今日はちゃんと守るからね」