第3章 家族の絆ー後編ー
「はいはい、頑張ったね」
怪我しているところの手当てをしながら、偉い偉い、と頭を撫でる。
「桜さん、手際良い……」
善逸は手当てしてもらった所をそっと触りながらポツリと呟いた。
「…君たちと合流するまでは蝶屋敷でしのぶたちと一緒に怪我人を診ていたからね」
何年もしてると流石に慣れるよ、と苦笑しながら教えてくれた。
長い間一緒に行動してきたけれど、桜さんのことは殆ど何も知らないんだなぁ、と思い知る。
そんな時だった。少し離れた所から“ドォォオン!!”と物凄い音が聞こえた。
「え、何?!何なの、一体!?向こうから何かヤバい音がするんですけどぉぉお!!」
桜の羽織をギュッと掴んでガクガク震えながら音のした方を見る善逸。
「……善逸。怪我している人の手当て、お願いしても良いかしら」
「え?」
桜から只ならぬ音を感じ取り、少し後ずさる。
「一通り見て回って重傷者の手当てはしたつもりだけど、まだ他にもいるかもしれないから」
善逸に薬と包帯が入っている鞄を渡して桜は音のした方をじっと眺める。
何かがぶつかり合う音がする。誰かが何かと戦っているのだ。
「戦っているのは…杏寿郎?」
ポツリと小さく呟やかれた言葉は善逸の耳にも届く。
一体何と戦っているの…?下弦の鬼は炭治郎が倒した。もう鬼はいないはずなのに、音のする方からは禍々しい気配が漂っている。
鬼は鬼でもただの鬼じゃない。
「上、弦…?」
本当に上弦だった場合、間違いなく桜では敵わない。
だが、ここで動かなかったら絶対に後悔する。何故か分からないが、そう思った。
「怪我人の手当てと禰󠄀豆子ちゃんのこと、宜しくね」
善逸の頭をポンポンっと撫でて、桜は激しい音がする方へと消えて行った。
「あ…」
行かないで、と言いたかったが、その言葉が善逸の口から出ることはなかった。
*****
「動くな!動くと腹の傷が開くぞ、待機命令!!」
近くまで来た桜の耳に届いたのは、怒り気味に叫ぶ杏寿郎の声だった。
状況を確認すると、杏寿郎はまさかの上弦の参と戦っていて、炭治郎たちも援護に行こうとしたところを止められたようだ。
あの杏寿郎が押されていて、状況は宜しくない。明らかに劣勢だ。