第3章 家族の絆ー後編ー
「見つけたぞ!煉子!!」
猪突猛進!と突撃してきたので軽く避けてあげると、勢い良すぎたのか思いっきり木にぶつかっていた。…痛そうだ、と思わず自分のおでこを撫でる。
「逃げるな!」
「いや、そんなこと言われても」
ものすごい勢いで突進してきた姿はまさに猪そのものだ。避けるに決まってる。
「伊之助くんの感覚は本当にすごいね。前よりも上達してる」
「そうだろそうだろ!俺様は親分だからな、こんなのは朝飯前だ」
ふははははは!と上機嫌な伊之助。彼は一見怖そうに見えるが、純粋で真っ直ぐな子だ。そして優しい。優しいのは他の二人にも言えることだが。
可愛いなぁ、と頭を撫でてあげると、湯気っぽいものが出てきてホワホワし始めた。
「煉子はなんでそんな寂しそうにしてるんだ?」
「……!」
「しのぶからはどこか怒った感じがする。ケンカでもしたのか?」
伊之助は感覚が鋭い。心の奥に閉じ込めた感情でさえも感じ取るのか、と思わず苦笑する。
「私としのぶは仲が良いからケンカはしてないよ」
縁側に座り、隣をポンポンと叩いて「ここにおいで」と指示すると、渋々だが来てくれた。
そして空を見上げる。今日は快晴だ。
「しのぶ以外にね、親友がいたの。貴方たち三人と同じでとっても仲が良かったの。私としのぶ、そしてもう一人…しのぶのお姉さん」
よく三人で一緒にいた。お出かけしたり、訓練したり、合同任務だったり…、楽しかった日々の記憶を思い出す。
「でもね、しのぶのお姉さん…カナエは上弦の弐に殺された」
桜の今の目標は彼女の敵討ちだ。そのためなら何だってする。そしてそれはしのぶも同様だ。でも二人の腕力ではきっと上弦の弐の頸は切れない。
だから、一年以上前からずっとしのぶと共に藤の毒を飲んでいる。その鬼を倒すために。
チラッと伊之助の方を見ると真剣な表情でこちらを見ている。
「…伊之助くん。貴方に託しても良いかしら」
「託す?何をだ?」
「万が一私の身に何か起きたら…上弦の弐を倒してほしい」
ダメかな?と困ったように笑って問うと、伊之助はフンッと鼻を鳴らし「いいぜ!」と返事をする。
「ありがとう。約束、ね」
伊之助の前に小指を出すと、伊之助は小指を絡めて「おう、約束だ!俺は親分だからな!」と言った。
……子分になった覚えはないけどね。