第1章 家族の絆ー前編ー
『花柱、胡蝶カナエ。上弦の弐と遭遇し、死亡』
鎹鴉から伝えられた言葉が理解できなくて、「は?」と思わず聞き返してしまった。一緒にいたカナヲも、驚き目を見開いている。
なんで、なんで、どうして……?
夕飯の時はいつものように笑い合いながらお話してた。任務を伝えられ、笑顔で「行ってきます」と、いつものように出掛けて行った。
そう、いつものように。
なのに…、どうしてこんなことになってしまったの……?
震える手をギュッと握りしめて、これは何かの冗談だ、と自分に言い聞かせる。
大丈夫、大丈夫……。カナエは強い。
いつものように、笑顔で「ただいまぁ!」と帰ってきてくれる。
待ってる間、一分一秒がとても長く感じられた。
時間が流れるというものは…こんなにも遅かっただろうか……。
無言の帰宅を果たしたカナエは痛々しい姿だったけれど、表情は穏やかで「朝だよ、起きて」と声をかければ、今にも起きそうなほど眠っているようにしか見えない。
「姉さん!姉さん!」と隣で声をあげて泣くしのぶの方がた痛々しかった。そんなしのぶをギュッと抱き締める。
しのぶにとってたった一人の身内だったのだ。辛いに決まってる。だからと言って、今何か言ったところで家を追い出された身とはいえ、家族がいる私の言葉はきっと嫌味にしか聞こえないだろう。
だから一緒に泣いた。しのぶが落ち着くまで、ずっと抱き締めながら。
「…ありがとう、桜」
貴女がいてくれて良かった、そう涙を流しながらしのぶは言った。
「どう致しまして」
葬儀は滞りなく、無事に終えた。ここ数日は忙しすぎてあっという間だった気がする。終わったら終わったで、任務の疲れとはまた違った疲れが溜まっていた。
またいつもの日常に戻るだけ。だけど、“いつもの日常”の中にカナエはいない。心に穴が空いたように寂しい。
けれど…時間は止まってはくれない。前に進むしかないのだ。
そして、しのぶと約束したことがある。
カナエを殺した鬼、上弦の弐を…どんな手を使ってでも必ず倒そう、と。
例え己の命を犠牲にすることになっても。
そう決意し、それぞれの思いを胸に二人は新たな一歩を踏み始めた。