第1章 家族の絆ー前編ー
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真剣な表情の杏寿郎と、驚き、哀しみを含ませた表情で固まる桜。
何となく…何となくだけど、予感はしていた。いずれ言われるだろう、と。
ただ、それが早すぎて少し驚いてしまった。
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「任務前に約束したよね?“必ず生きて帰る“って」
そう、約束したばかりなのだ。そして杏寿郎も納得はしたはずだった。小指を合わせて“約束の指切り”までしたのに。
「うむ!約束した。だが俺は、少々甘く見ていたようだ!」
最終選抜の鬼など比べものにならないくらい、強い鬼がたくさんいる。運が悪ければ、十二鬼月と遭遇する可能性だってある。
杏寿郎が倒した鬼も十二鬼月の座を狙っていた。そして九人もの隊士が命を落としたのだ。その中に桜がいたらと思うと背筋が凍る。
約束を交わしたばかりで申し訳ないとは思うが、杏寿郎は、もしかしたら桜を失うかもしれないと思うと怖くなったのだ。
「………ゅ郎なんて」
「…桜?」
「…っ、杏寿郎なんてもう知らない!」
バンッ!!っと開いていた襖を勢いよく閉めて走り出す。
「あ、姉上…!」
その場にいた千寿郎は驚いて桜呼んだが、それに応えることはなかった。そして杏寿郎の方を恐る恐る見る。
「…兄、上」
まさか杏寿郎がそんな話をすると思わなかった。昔から二人で強くなるための訓練をしていたのだ。共に頑張ろうと励まし合っていたのに。
「…驚かせてすまない。千寿郎…俺は、間違っているのだろうか」
これ以上、大切な人を失いたくない。あんな思いなど、母上だけで十分だ。
そこで、ふと思う。父上も俺たちを死なせない為に鬼殺隊に入ることを止めたのでは、と、
「俺は…何が正しいのか正直分かりません。ですが、兄上には兄上の信念があるように、姉上にも姉上の信念があるのだと思います」
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固く結ばれた二人の絆に少しずつヒビが入る。
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そしてそれは、取り返しのつかないところまで来ていることに、誰も気付くことはない。
共に訓練して笑い合い、お腹が空いたとご飯を食べる。そんな当たり前の日常が終わりを告げようとしていた。