第16章 幕間
もわもわと漂っていた胡椒ごと煙が払われて、視界が良好になる。
「まったく、気配に注意しなさいよ。」
カカシさんの呆れ声は、エニシに向けられていた。
何故なら彼女がずぶ濡れだったから。
「忍なら裏の裏を読め。鉄則でしょうが。」
そう言って笑うカカシさんのマスクは汚れもなく綺麗だった。
エニシは、わなわなとカカシさんを指差す。
「ああぁぁ〜!!綺麗になってる!!」
「お前の予想通り、替えたからね。」
「〜〜〜!!ちくしょー!!!」
エニシは悔しそうに地団駄を踏む。
子どもか。
…子どもだったな、そういえば。
「お前も惜しいところまでいってたんだけどな。」
ぽんぽん、とカカシさんから肩を叩かれた。
「やっぱり、さっきのが本体でした?」
組手の最中、感触がそうじゃないかと思ったんだ。
「まあね。お前はどうも利き手じゃない方の精度が良くないから、そっちを訓練したらもっと際どいところまで攻め込めるよ。」
そうか、今度修行する時は左側を中心にやってみようか。
ぽんともう一度肩を叩き、カカシさんは手を下ろしてエニシの方へ視線を向けた。
彼女は不貞腐れた顔で腕を組んで獣の様にその場をぐるぐると回っている。
「おーい、風邪ひくよ〜。」
カカシさんの言うことは最早耳に入ってはいない。
暖かい日が増えてきたとはいえ、まだまだ冬の時分。思い切り水を被ったエニシは寒かろう。
「しょうがない奴だな。」
「ははっ。だな。」
カカシさんと顔を見合わせ笑い合った。
案外と俺もこの時間は好きだったりする。
彼女に手を貸すのも、外野から見守るのも。
多分、そう思っている奴は多い。
ここにいる者は、微笑ましい顔でエニシを見ているのだから。