第3章 私が今、出来る事
カサカサと音を立てながら、六折の手紙を開く。
“手紙をありがとう。
九尾に伝えました。
とても驚いていましたよ。
私もとっても驚きました。
それと、大事な事にも気付きました。
名前って、とても大切よね。
今まで知ろうともしなかったので、少し後悔しました。
これからは少し歩み寄ってみようと思います。
教えてくれてありがとう。
またお話ししましょ。
クシナ”
「クシナさん…!」
私は涙が溢れて止まらなかった。
書いた甲斐があった。
伝えてよかった。
けれど、遅過ぎた。
もっと早く気が付いていればよかった。
もっと早く思い出してればよかった。
後悔しても、もうクシナさんは戻らない。
もう永遠に会えない。
寂しいな。
悔しいな。
「…ゔぅぅ…。」
私は嗚咽を飲み込んだ。
何か、ここで泣いたら駄目な気がした。
狡い気がした。
手紙をぎゅっと抱きしめながら、ひたすら涙を堪える。
「じゃあ…。俺、行くから…。」
その人は踵を返した。
ざっざっと音を立てて足が遠ざかるのが見えた。
お礼だけは言わなきゃ、と思い、何とか声を振り絞る。
「あ゛り゛がどゔ…。」
嗚咽を堪え過ぎて変な声が出た。
その人は少し笑う。
「…気をつけて帰れよ。」
それだけ言うと、しゅっと小さな音を立てて、消える様に去って行った。