第8章 宝の持ち腐れ…は、まずいよね
「ただいま。」
イタチは玄関先でそう言って、靴を脱ぐ。
すると、何処からか知らない歌が聞こえてきた。
耳を澄ますと居間の方からだ。
時折、サスケの声も聞こえてくる。
…声が違う。母さんではない。
サスケが人に懐かない事を知っているイタチは、珍しいと思いながらも歩いていく。
部屋の前で止まると、そっと襖を開けて中の様子を窺い見る。
すると、サスケの両手を握り楽しそうに歌っているエニシが目に入る。
これまた珍しい客人に、イタチは思わず目を瞠った。
エニシが歌っているところを初めて見た。
イタチは、すっと襖を開けて中へと足を踏み入れた。
「あ、おかえり〜。」
エニシが気づいて、笑いながら声をかけてきた。
彼女に釣られてサスケがイタチに気づいて、きゃっきゃっと声を上げる。
「…何してるんだ?」
イタチは挨拶もそっちのけで、思わず返してしまう。
普段接点がないだけに、家に彼女がいる光景が不思議に写る。
「ミコトさんから子守頼まれたんだよ。」
見れば分かる。
何故家に居るのかを知りたかったのだが、エニシからズレた答えを返されてしまった。
だが、まぁいいか、と思い直した。
それよりも母がサスケの世話を頼むなんて珍しい、とイタチは思う。
「母さんから?」
だが、きょろきょろと見回してみるも、肝心の母の姿はどこにもない。
「ミコトさんなら買い物行ったよ。そろそろ戻ってくるんじゃないかな。」
エニシがイタチの意図を汲み、答えた。
「そうか…。」
イタチは呟く様に答えてから、今にも駆けてきそうなサスケを受け止める為に両手を開く。
すると、
「待った!」
エニシから止められてしまう。