第3章 その瞳で見つめてー炎柱・煉獄杏寿郎
「ねねーおねーさん!お買い物大変そうだねー!すごい荷物!俺が持ってあげるよ!その代わりちょっとお茶して行かない?」
突然若い男性が話しかけてきた。
強引に私から荷物を奪うとスタスタ歩き出してしまう。
「あっ、あの!大丈夫ですから!」
「いいっていいって!」
あっという間に私の知らない甘味処に着いてしまった。
「ここでお茶しよ?ね?おねーさん」
「いや…あの…ここって…」
甘味処は甘味処だ。
でもここの2階はいやらしいことをする場所だって、こないだ通りすがりの人の話を聞いた。
「いやっ、いいですほんとに!」
「それはないでしょー?俺ここまで荷物持ってあげたじゃん!」
「それはあなたが勝手に…!」
「いいから早くしろよ」
男性の声が低く冷たく響く。
怖くて何も言えなくなった。
「…っ!…いや…っ」
腕をひかれて中へ連れ込まれそうになる。
「き…杏くん…っ!!!!」
思わずいるはずのない杏くんの名前を叫んだ。
次の瞬間。
私の肩はいつもの香りに抱かれていた。
「あ?誰だよお前。離せよ。」
「きょ…杏くん…?!」
「大丈夫だったか?怖かっただろう。」
「おい!邪魔するんじゃねぇっ!」
男性は杏くんに殴りかかった。
しかしその拳が杏くんに届くことはなかった。
容易くかわした杏くんは男性の腕を掴んだ。
「んだよ!!離せ!!」
「彼女は俺の大切な人だ。とっとと帰れ。」
大切な人…?
「お前の大事なもんだろうが何だろうが知ったこっちゃねぇよ!」
「なら仕方ないな!」
そう言うと杏くんは男性の腕を掴んでいる手に力を込めた。
…ミシッ
「ぐぁぁぁっ!!!」
男性は杏くんから勢いよく離れた。
骨にひびが入ったくらいの、音がしていた。
「すまないが、君が悪い。」
「もっ、もういい!」
男性は走ってその場を去った。
「大丈夫だったか?」
「…っ…怖かったぁ…っ」
私は思わず杏くんに抱きついた。
「すまないな…もっと早く来ていれば。」
「ありがとう…っ…」
私は杏くんの胸で思いきり泣いた。
私が落ち着くまで、杏くんは私の頭と背中を撫でてくれていた。