第2章 距離
幸希side
歩いて登校し、学校に着いた。
この時間帯はいつものように生徒が多い。
だから昇降口も混雑している。
「こ、幸希くんっ……おはよ……っ」
後ろから昨日聴いた声が聞こえた。
このビクビク怯えたような声は千尋だ。
振り向くと案の定、千尋が縮こまって俺を見つめていた。
これ以上関わりたくはない。
「……おはよ……」
軽く挨拶を返し、千尋を置いて昇降口へ向かう。
「あっ……待って……」
昨日の事で俺らの関係性について話したいのだろう。
でも俺は関わりたくないっていうのが本音だ。
この先も千尋とは他人でいたい。
昇降口に着き、靴を履き替える。
さっきまでいたはずの千尋の姿がなかった。
……いや、俺には関係ないことだ。
昨日の千尋が助けを求めている姿が脳内を過ぎる。
大きな溜息を吐き、靴を再び履き替える。
微かに残るΩの匂いを頼りに千尋を探す。
「……やめてください……」
見つけた時には既に3人に囲まれていた。
「お前Ωらしいじゃん?」
よく見ると3年生か?
「おい待てって。」
逃げようとする千尋の腕を掴む。
「っ……離してくださいっ……いっ」
「Ωの匂いさせておいて何言ってんだよ。」
「ひっ……」
千尋が殴られようとしているのを俺が拳を握り止める。
俺は本当に何をやってるんだ。
「なんだ?お前。」
「先輩。そこのΩ、俺のなんで。すみませんが触らないで貰えます?」
「あ?」
拳を握られた先輩は俺を睨み返して来たが、後ろにいた1人の先輩が顔を青くさせた。
「お、おい……こいつの父親って確か元ヤクザじゃなかったか……」
「まじかよ……やべーじゃん……」
「はぁ?!」
こういう時には役立つ親父の過去。
先輩達は「やべ」と言って逃げていった。
というかどこから情報漏れてんだよ……。
助かったけど。
俺は再び昇降口に向かう。
「あ、ありがとう!幸希くん!」
千尋にお礼を言われ手をヒラヒラと返す。
「……その腕、保健室に行けよ。……あと、あくまでさっきの言葉はあの場を乗り切る為の嘘だから。じゃあな。」
「う、うん……」
顔を見なくても悲しい表情をしているのが分かった。
俺にはそんな気なんてサラサラない。
勘違いされても困る。