第7章 不器用*花京院典明
私は家路に着くがてら花京院さんに杜王町を案内した。
花京院さんは色々なところを見るたびキラキラとした素敵な目で眺めている。
この風景を目に留めて絵として残したい、とのことらしい。
10歳弱離れているにも関わらず、少しだけ可愛らしさを感じた。
「花京院さん、今日はそのーありがとうございました。家まで送ってもらって…」
「大丈夫だよ。女の子を一人で放っておくほうが心配だからね。」
そういってまたくしゃくしゃと私の頭を大きな手で撫でる。
その手はどこか色っぽく、胸元まで伸びる髪を絡めゆっくりと感触を楽しむかのように優しく髪をといた。
慣れないその感覚にぎゅっと目を瞑ってしまう。
なぜか少し恥ずかしい。
承太郎さんとの今朝のあの姿を晒してしまった事。全部が全部今になって蘇ってくる。
「承太郎とはあんなことをしていたのに恥ずかしいのかい?」
低い甘い声でそう呟き、私と花京院さんの体の距離が近まる。
この香りそして微かに感じる体温。
自分の中で恥ずかしいという気持ちが膨らんでどうにかなりそうだった。
穴があったらすぐに入りたい…!
「冗談だよ。君を見てると少し意地悪したくなっただけさ。
承太郎が羨ましいよ。こんな素敵な彼女がいて。」
か、彼女…?
「え、私彼女じゃないです…」
そう。
私は承太郎さんの何者でもないのだ。ずっと片想い。
関係がいくら深くなろうが承太郎さんからは何も言われたことがない。
「じゃあ君は…」
「ああああああもうそれ以上言わないでください…!承太郎さんが結婚してた時点でもう私の恋は終わってるんです…!
都合の良い関係なんです!!!」
曖昧な関係。本当にその通りだった。
「じゃあ僕が今から何しようと承太郎は何も言う権利はないね」
「花京院さん…?」
そういうと彼は私の目線まで屈み、ちゅっと頬にキスを落とした。
「イタリアでは挨拶じゃあないか。そんなに赤くなるなんて純粋かい?」
「この距離で言わないでください…!慣れてないです…そんな目を見て承太郎さんはいつもキスしてくれないんで…」
すると彼はぐいっと顎を持ち上げてきた。
「じゃあ僕でこれからはいっぱいにしてあげるよ。イタリアに行っても忘れないくらいに。」