第5章 これだから色気のある人は苦手だ。
「……」
「あの…ボタン付け終わったから離れて貰っても?」
「……」
「蘭ちゃ…ひゃっ!」
私の首筋へ舌を這わせて軽く甘噛みされた。ギラギラした目で私を見てから、苛立つように大きく息を吐いてからゆっくりと目を閉じると、へらりとした余裕そうな顔をして私が知る蘭ちゃんの姿へと戻った気がした。
「ありがとな、栞…もう行っていいから」
「えっ、あっ…」
「早く行かねぇと襲っちまうぞ~♡?」
「ら、蘭ちゃんの馬鹿っ!」
噛まれた首筋を手のひらで隠し、部屋を飛び出した私を蘭ちゃんがぼーとしながら見つめていて「ははっ、やべぇな…危なかった…俺もまだまだ青いなぁ」と呟いていたとは知らなかったりする。そして顔を真っ赤にさせていた私を春ちゃんが見付けてしまい酷く心配されたけれど、何でもない!何でもないから!と誤魔化す事になるとは思わなかった。色気のある人はやはり苦手だ。一週間くらいは蘭ちゃんと口を聞かない、私はそう心に誓った。