第5章 これだから色気のある人は苦手だ。
「あ、あの…蘭ちゃん…?」
「何で逃げんの?」
「な、なんでって…」
「ははっ…顔真っ赤…」
「ひっ…」
耳元でひっそりと囁かれゾワゾワする。遊ばれているのは分かっていたが、男性に慣れていない私は既にいっぱいいっぱいで小刻みに体を震わせてしまった。こちらを向くよう誘導されて、ゆっくりと振り返れば視界の暴力でありアワアワしてしまう。普段見られる事のない刺青や割れた腹筋に目を回してしまい顔を俯かせた。
「っ…蘭ちゃん、お願いだから服着て」
「ふはっ…可愛い♡」
「蘭ちゃんっ!」
「う~ん、じゃあ…栞が着替えさせて?♡」
「はいっ!?」
驚いて蘭ちゃんを見上げる私は、またもその裸体を視界に入れてしまい恥ずかしさの余り顔を背けた。しかし蘭ちゃんは意地悪そうに笑い声を出して「俺のボタン止めないと部屋から出してやらねぇよ?」とにじり寄って来る。私はもう半泣きになりながら、「分かったからこれ以上近付いて来ないで」と必死に伝えた。なるべく見ないようにボタンを止めて行く、何でこんな事になったんだっけ?
「栞、ボタン掛け間違えてるぞ~」
「えっ、嘘っ…」
「うん、嘘♡」
ぐっ…蘭ちゃんのペースに振り回されてしまい心臓に悪い。早く終わらせないとと思うと手が震えてボタンが止められず、上手く出来なくて涙目になって来た。漸くワイシャツのボタンを全て止められて、涙目のまま蘭ちゃんを見上げると先程まで笑っていたのに無言でこちらを見下ろして来るから何か失敗してしまっただろうかと不安になる。