第5章 知らなかった世界
ローに気づいたナデシコは慌ててワンピースを戻そうとした。
「ごめんなさい、つい可愛くて…」
「いや、構わねぇ。着たいんだろ?」
「え…?いいの?」
「もう、金は払った。着替えるならあそこに行け。
脱いだ服はおれが預かる。」
ナデシコの表情がたちまち明るくなる。
ありがとうと言うと更衣室へ駆け込んで行った。
「ハァ…何してんだ…おれ?」
ため息が漏れ自分に呆れた。
ふと、死んだ妹が思い出される。
(ラミも生きてたらあぁいう服を着たがったのか?)
何となく地獄によって失われた妹と重なる。
ちょっとわがままで元気で少し生意気な可愛い妹。
(別にナデシコにはしてやる義理があるわけでもない)
しかし、あの輝くような表情をされると弱くなる。
ローはまたはぁっとため息を吐いた。
シャーっと勢いよく空いたカーテンの音が鳴る。ふと顔を上げるとワンピースを着たナデシコが現れる。
「ど、どうかな?」
恐る恐る聞いてくる彼女に対してローはぶっきらぼうに悪くないなと答えた。