第2章 参謀の仕事
不良に争い事というのはツキモノで、それはいつも唐突に始まる。
例えば、比較的平和だった学校からの帰り道、勝手に喧嘩賭博を行う不届き者を見つけたり。
例えば、彼氏の新しい友達へ会いに行った他校で、そこの不良から喧嘩を売られたり。
例えば、期末試験から解放された放課後、疲れを取る間もなくメンバーから電話がかかったり。
「──パーの親友が愛美愛主(メビウス)にヤられた⁉︎」
東卍の隊員からかかった電話のあまりの内容に、アタシはまだ教室にクラスメートが残ってるのも忘れて大声で驚愕してた。
すぐに鞄を引っ掴んで、教室を飛び出し全力で走り出す。
《その親友さんの彼女が、路上でボロボロんなって倒れてるのを発見されたらしくて……パーちん君がブチ切れて、今にも飛び出しそうです》
東京卍會参番隊隊長・林田 春樹ことパーちんは、東卍の中でも人一倍腕っ節が強く、人一倍バカ、そして人一倍仲間想いな男。
そんなパーちんの親友が、新宿の暴走族〝愛美愛主〟にヤられてしまったとなれば、パーちんは絶対に黙ってない。
でも……
「絶対に止めて‼︎アタシもそっち行くから!」
いくらパーちんでも、愛美愛主みたいなデカい暴走族(チーム)に単独で突っ込んで勝てるワケない!
「ペーやん居るでしょ⁉︎ペーやんに『絶対にパーちん行かせんな』って伝えて、止めさせて!」
《は、はいっ》
半ば怒鳴るような形で隊員との通話を終え、アタシはそのままマイキーの携帯に電話をかけた。
「マイキー!」
《ん?どうした和月?》
「パーちんがっ──」
焦る気持ちを押さえ着けながら、アタシはマイキーにパーちんと愛美愛主について報告した。
《──……話はわかった》
電話越しにも、マイキーの怒りが伝わってくる。
《すぐにケンチンと隊長全員集めろ》
「いや……」
外を走って風に当たるうち、いくらか冷静さを取り戻したアタシは、東卍の参謀としてマイキーに答えた。
「緊急召集はかけなくていいと思う。こんな言い方するとアレだけど、まだパーが親友から相談を受けたってだけの話だから……」
パーちんの親友は、東卍のメンバーじゃないし、不良でもない。
パーちんの口からどうしたいか聞くまで、“東京卍會の問題”にする事はできない。