第7章 総長と参謀

場地に文句言おうと顔を上げる、アタシの上に影が差す。


「！」


ガシッ


こちらに詰め寄ってきていた場地が、ペーやんを押し退けてアタシの胸ぐらを掴んだ。


力一杯アタシの体を持ち上げて、場地はアタシの目を睨み付ける。


「稀咲の件、取り消せよ」


「！アンタまだ……」


「やめろ‼︎場地‼︎」


「ペー、テメーは引っ込んでろ」


辺りから隊員達の焦る声が聞こえてくる。


「場地さん⁉︎」


「隊長が参謀を殴った…⁉︎」


「何考えてんだ⁉︎」


場地がアタシを殴った事実を、隊員達は信じられないとばかりに騒然としていた。


「オイユウ〜？テメー、話聞いてンのかよ」


「……アンタこそ、話聞いてなかったワケ？稀咲の事は、もう決定した話なんだよ」


アタシはキッと、場地の目を睨み返す。


「今更取り消すワケないでしょーが」


「あ？知るかよ。いいから取り消せつってンだ」


「嫌だ」


ピキッと、場地の額に青筋が浮かぶ。


「もう一発殴られてえか？」


「殴られた程度で、このアタシが折れるとでも思ってンの？」


掴み上げられた特攻服に首を圧迫されて、さすがに苦しくなってくる。


それでもアタシは、場地を睨み返す事をやめなかった。


「そーかよ」


場地が、再び拳を振り上げる。


反射的にカウンター決めようと動く手を、アタシは自分で押さえ込んだ。


ガッ！


「！」


背後からペーやんが、場地の腕を掴んで止めた。


「ユウから手ェ放せ、場地！」


「チッ…」


鬱陶しそうに舌打ちをした場地が、アタシの胸ぐらからパッと手を放す。


アタシは何とか転ばずに着地して、すぐに顔を上げたけど……


バキッ


その瞬間には、場地がペーやんの頬を打ち抜いていた。


「ぐっ」


「引っ込んでろっつったろ」


場地の強烈な一撃を受けて、ペーやんの上体がグラッと揺れる。


場地は既に次の拳を構えてた。


「圭介ッ‼︎ペーは関係ないでしょ⁉︎」


「あぁ、そーだな」


アタシが怒鳴ると、場地はすんなり拳を納め、クルッとペーやんに背を向けた。