第6章 決戦を越えて
8月4日───朝
アタシは、佐野家の台所で朝ごはんの準備をしてた。
そこへ、目元を擦りながらペタペタとスリッパを鳴らすエマがやってくる。
「ユウ、おはよー」
「おはよ」
アタシがエマに「座ってていいよ」と伝えると、エマは「へへへ」と笑う。
まだ眠たいのか口調がモニョモニョしてるけど、エマの笑顔はいつ見ても可愛い。
「なんかご機嫌だね?」
「ウチ、ユウが台所に立ってるトコ見んの好きだから」
「えー何それ」
出来上がった味噌汁に蓋をして、アタシは棚からフライパンを取り出しコンロの上に置いた。
「卵のリクエストは?」
「んー……卵焼き!甘いやつ」
「相変わらず好きだねぇ」
ボウルに卵をといて、砂糖を加える。
座ってれば良いのに、エマはアタシの隣に立って手元を眺めてた。
「おはよう」
エマ好みの卵焼きを作り終えたところで、後ろから優しい声がかかった。
「じぃちゃん、おはよ」
「おはようございます」
新聞を手に現れたのは、マイキーとエマの祖父・佐野 万作先生。
「なんじゃ、和月が来とったのか」
「昨晩泊らせて貰ってました。挨拶が遅くなってすみません」
「いんや。お前さんなら遠慮は要らんよ。好きなだけ泊まって行きなさい」
先生は笑いながら食卓に着いて、アタシに「お茶をくれんか」と頼んだ。
「あと、挨拶が済んだらその敬語はやめてね。じぃちゃん傷付く」
先生がそう言うのに、アタシはブハッと吹き出して笑ってしまう。
「わかった。お茶すぐ淹れるね、じーちゃんセンセ」
「うむ」
満足そうに頷く先生を見て、エマも「あはは」と笑ってた。
先生にお茶を淹れてから、アタシは朝ごはんの準備を再開した。
味噌汁、卵焼き、野菜炒め……出来上がった御菜をテーブルに並べて、ご飯をよそったところで、ようやくマイキーが起きてきた。
「マイキー、遅い!」
「んーー……ごはーん」
エマが注意するのに、マイキーは耳に届いてないようでノソノソこちらに歩いてくる。
「和月ー……」
「おはよ、マイキー」
ボサボサ頭を揺らして、眠けまなこを瞬かせながら、マイキーがギュッとアタシに抱きついてきた。