第16章 東京卍リベンジャーズ・佐野万次郎
不意に
少し頬を赤らめたレイナが俺の顔を覗く
『…………ねぇ………もういっそのこと、私達も結婚するのはどう?』
結婚だなんて
そんなのは夢のまた夢のような事だと思ったけれど
上目遣いで見つめられ、思わず笑みがこぼれる
「……フッ…………それもいいな…」
俺の返事を冗談だと分かっているくせに
彼女は瞳をキラキラさせながら話を続けた
『…結婚したらさぁ…万次郎はどんな家に住みたい?』
「……んー…………とりあえず、一軒家だな」
『…一軒家かぁ……和風?洋風?』
「和風に決まってんだろ」
『いいね♪……後は、何か希望ある?』
「広い庭。……庭の真ん中に池があって、縁側から見えるんだ。………あと、門を入ってすぐ左側に…倉庫みたいなガレージがあって…そこでバイクいじったりできるようになってる。…それから…」
俺は、自分の頭の中に自然と浮かんできた " 理想の家 " について
事細かにレイナに話して聞かせた
どうしてこんなに具体的なイメージが思い付くのか、理由はよく分からなかったけれど
その家のことを考えていると
なんだかとても懐かしいような、あたたかい気持ちになれた
小さな部屋を借りて
彼女とふたりきりで暮らしていた時
このまま普通に付き合って
普通に働いて
普通に結婚して
普通の家庭を築くのも悪くないんじゃないか、なんて思った事があった
親父は俺が3歳の時に事故で死んで
小3の時に病死してしまった母親も
長い間入院していて、ほとんど家には居なかった
普通の家庭がどんなものかなんて、よく知らなかったけど
レイナとなら
2人なら
幸せになれるって自信はあった
それはそれで " いい未来 " だと
浮かれた事を考えていた
残忍な世界にどっぷりと浸かりきっている今でも
あの頃の事を思い出して、彼女との幸せな未来まで欲張ってしまいたくなるのは
既に、俺の頭が相当イカれているからなのだろう
目を閉じると現れる、黒い悪夢に悩まされ
もう長いこと
まともに眠っていなかった
起きているか寝ているのかの区別も曖昧になり
思い出せない事が増えていく
正気を保てる時間も
昔と比べると格段に短くなっていた