第15章 東京卍リベンジャーズ・黒川イザナ
翌朝
まだ乾ききっていない靴を履いて登校したイザナは
体育館の横を歩いている時
フェンス越しに池の方へ目をやった
もうずっと手入れをされていないであろう深緑色に濁った水面には
たくさんの落ち葉やゴミが浮いている
(……こんな中に入ったのか…)
もっとちゃんとお礼を言った方が良かったかもしれない、と
少しだけ後悔した時
背後から『おはよ』と声がして
振り返ると、昨日の女の子が立っていた
「………お…はよ…」
さりげなく足元を確認すると
彼女は昨日とは違う水色のスニーカーを履いていて
イザナはホッとした
挨拶を交わしたけれど
その後は特に会話もなく
2人は昨日と同じように少し離れて
学校への道を歩いた
「レイナ〜♪おっはよ」
校門の所で声を掛けられ
彼女は明るい笑顔で『あ、おはよー』と答えた
「……」
女友達と話をしているレイナの楽しそうな笑い声が聞こえてくる
前を歩くイザナの口元は
無意識に綻んでいた
彼女の名前は
" 織月 レイナ " といった
真面目でおとなしそうな外見のレイナは
クラスの女子の中では、それほど目立つ存在ではなかった
頭が良く、授業中も難しい問題にスラスラと答えていたが
反対に運動のほうはあまり得意ではないようだった
ピアノが弾けるらしく
彼女の住む大きな家の前を通ると
よく
きれいなメロディが外まで聞こえてきていた
スニーカーを届けてくれたあの日以来
イザナはレイナと挨拶を交わすようになった
" おはよ "
" じゃあね "
たったそれだけのやり取りが
他に話し相手の居ないイザナにとって
いつからか密かな楽しみとなり
毎日の登下校の時間を
待ち遠しく感じるようになっていった
朝、施設を出る時も
放課後、教室を出る時も
タイミングを合わせ
イザナは彼女の少し前を歩く
自分とは違う歩幅の小さな足音を聞いていると
何故か心の中が穏やかになって
その間だけは
嫌なことを忘れられるような気がした