第15章 東京卍リベンジャーズ・黒川イザナ
「…どこにあった?」
『……クラスの男子が……体育館の横の池に投げてて…』
「…そういえば…池の方はまだ探しに行ってなかったな…」
『……』
気まずそうに黙りこんでいる彼女に「ありがと」と言い
上履きを持って昇降口の方へと歩き出したイザナは
ふと、足を止めて振り返った
彼女の顔から
下のほうへと視線を移す
膝丈のスカートから伸びた
白く細い脚の先
泥で汚れた淡いペパーミントグリーンのスニーカーの下に
真っ暗な水たまりができていた
「……池の中……入ったの?」
『………ぁ……長い枝とか探したんだけど…全然落ちてなくて……モタモタしてたら沈んでいっちゃいそうだったから…』
「……」
ズクズクと音を立てながら
施設への帰り道を歩く
一緒の方向なのか
3メートルくらい後ろからも
同じ音が着いてきていた
冷たくそびえ立つような施設の建物を囲む
苔むした塀が遠くに見えてきた時
靴音のひとつがふと途切れた
何気なく横目で振り返ると
大きな一軒家の前で立ち止まっている人影を
イザナは目の端に感じた
『…じゃあね』
小さな声が聞こえて
咄嗟に顔を向ける
そこにはもう
彼女の姿は無く
生垣の向こうへと消えていく
ランドセルの赤がチラッと見えただけだった
「……」
施設の玄関脇
水撒き用のホースを手にしたイザナは
蛇口を勢いよくひねり、直接スニーカーに水をかけた
ヘドロのような黒い汚れや千切れた水草が下水溝に吸い込まれていくのを
ボンヤリと見つめる
もう
こんな事ぐらいでは
悔しさも
悲しさも湧いては来なかった