第15章 東京卍リベンジャーズ・黒川イザナ
" シセツ " での暮らしは
イザナが想像していた以上に最悪だった
珍しい名前や外見を理由に揶揄われ
反抗すれば殴られる
新参者への理不尽な扱いは珍しいことではないらしく
大人たちは見て見ぬふりをして、事なかれ主義を貫いていた
味方も
仲間も居ない
転校先の小学校でも、それは同じだった
施設の連中のようなあからさまな暴力行為は無かったが
親と離れて暮らすイザナに対し
心ない言葉を言ったり
ワザと足をかけたり
持ち物を隠したりと
陰湿なイジメは少しずつエスカレートしていく
けれどイザナは
学校にはサボることなく毎日通っていた
そんな過酷な環境でも
昇降口には、名前が書かれた下駄箱があり
教室に入れば、席が用意されている
まだ、自分はここに居てもいいのだと
許されているような気がした
そんな日々を過ごして
1ヶ月ほど経ったある日の放課後
教室を出たイザナが靴を履き替えようと昇降口へ向かうと
下駄箱の中に置いたはずのスニーカーが無くなっていた
(……またか…)
靴を隠されるのは初めてではなかったので
イザナは驚くこともなく淡々と心当たりの場所を探しはじめた
ゴミ箱の中
掃除用のロッカー
女子トイレ
同級生達が帰ってしまい、静かになった廊下を
ひとりウロウロと歩き回る
中庭の鶏小屋の方へも、上履きのまま探しに行ってみたけれど
スニーカーは見当たらなかった
(…仕方ない…このまま帰るか…)
そう思ったイザナが校門の方へ歩き出した時
後ろから小さな声がした
『……あの…』
振り返るとそこには
ひとりの女の子が立っていた
『……コレ…』
同じクラスで顔は見たことがあったけれど
まだ名前を知らないその女の子が
片手をイザナの方へ差し出す
彼女が持っている見覚えのあるスニーカーからは
ポタポタと雫が滴り落ちていた
こげ茶色に濁った水滴が
次々に地面へ染み込んでいく
「……ぁ…」
イザナはグッショリと重たいスニーカーを受け取ると
躊躇いもせずに上履きを脱いで履き替えた