第15章 東京卍リベンジャーズ・黒川イザナ
「エマ、お兄ちゃんにバイバイして」
物憂げな母親の声に促され
エマは目の前の兄を見上げた
パンパンに荷物の詰まったリュックを背負い、いつもより少しきれいな服を着たイザナは
4つ下の妹の目を真っ直ぐに見つめ返すと、静かな口調で言った
「お別れだ…ニィは " シセツ " に行くんだ」
「…シセツ?…楽しいトコロ?」
無邪気な瞳で問われ
今朝のことを思い出す
" …イザナ…これからは一人だから……強く生きなさいよ "
薄らと涙を浮かべた母親の顔を見て
" シセツ " がどんな所なのか何となく想像がついた
けれど
まだ3歳の妹に何を言っても、きっと分からないだろう
だったら
せめて笑顔で別れたかった
「うん!きっと楽しい」
「えー‼︎いーなー‼︎エマも行きたい」
「ハハ…」
まるで遠足の日の朝みたいな
エマの言葉
もう会えなくなるなんて
これっぽっちも理解していない幼い妹の目を見て
イザナは言った
「そのうち…必ず迎えに行く……約束だ…エマ」
灰色のスーツを着た、役所の男の人が運転する車の後部座席に膝をついて
後ろを向いたイザナは2人に手を振り続けた
(……母さん……こっちを見て……)
けれど
その姿が小さく小さくなって
車が角を曲がるまで
母親が顔を上げることは無かった