第14章 東京卍リベンジャーズ・九井一
頭では分かっているつもりでも
触れたくなってしまう
自分が誰かに対して
またこんな気持ちになれるなんて思ってもいなかった
湧き上がる衝動に
胸が苦しくなる
九井は戸惑いながらもゆっくりと顔を近付け
救いを求めるようにそっとキスした
小さな水音を立てて唇を離すと
レイナの瞳が真っ直ぐに自分を映していた
『……ぇ…』
「…っ…」
『…………ねぇ……今のって…』
九井は慌てて彼女から離れると
そのまま起き上がった
「……帰る…」
『…っ……ちょっと、待ってよ…』
服装を整えるのもそこそこに
ジャケットを拾い上げ、玄関へ向かう
『…待ってってば!』
ガウンを羽織ったレイナが追いかけてくるのを待たずに
九井は部屋から出て行った
エレベーターを降り
逃げるようにマンションを後にする
大通りでタクシーを捕まえて乗り込むと
前屈みになり、頭を抱えた
(……………やっちまった……)
気持ちを抑えられずにキスしたことを
彼女に気付かれてしまった
寝ぼけていたということで
何とかごまかせるだろうか
(……苦しい言い訳だが…それで押し通すしかねぇ……正直に伝える訳にはいかないんだ…)
次に会った時
何か言われたら全力でとぼけることにしようと決めた九井は
何気なくポケットに手を入れて、愕然とした
(……………スマホ…忘れてきた…)
タクシーでマンションまで戻り、部屋番号を押して呼び出すと
無言のままエントランスのドアが開いた
「……」
この上なく気まずかったが
引き返す訳にはいかない
九井はひとつため息をついてから
エレベーターのボタンを押した