第14章 東京卍リベンジャーズ・九井一
その時は
いくら考えても答えが出なくて
説得の術を見失った九井は
最後の手段として乾を突き放した
そこまですれば
乾は最終的には自分から離れず
一緒にいてくれるという可能性に賭けた
捨て身の手段をとったつもりだった
けれど
九井の希望を込めた予想に反し
乾は同じ道を選ぶことはしなかった
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あの日から
胸の真ん中にポッカリと穴があいたようだ
イヌピー…
俺はどんな時もお前について行ったのに
お前は俺と一緒に来てはくれなかったな
新しい居場所と仲間を見つけたお前に
少し妬けた
だって
俺にはずっとお前しか居なかったから
「オレは " 赤音 "じゃねぇ、" 青宗 "だ‼︎」
「赤音はもう死んだんだ!」
赤音さんを重ねて見ている俺の目を
お前は必死で覚まさせようとしてくれたよな
でも、あの時の俺は
まだ現実を受け入れられなかった
そして
守ることができなかったあの人との約束を
お前の力になることで果たそうとしていた
そうでもしないと
自分の中で赤音さんとのことが過去になってしまうような気がしたんだ
あの時
もし、もっと本気で説得していたら
俺たちは今も一緒にいられたか?
側にいてくれと俺が心から頼んだら
きっとお前は…
でも俺は
そうはしなかった
お前は
幸せにならなきゃいけないから
あの人の分まで
幸せに
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" 関東事変 " が終わり、乾と離れてから
九井の心はずっと凍ったままだった
楽になる為に感情を捨て
「金が全てだ」と自分に言い聞かせるようにしていたら
いつの間にか " 梵天 " という巨大な反社組織の幹部になっていた
クリスマスの時期が来ると思い出す
" 聖夜決戦 "
あたり前のように2人で一緒に居たあの頃が
九井にとって1番幸せだったような気がした
もうあの頃のように笑うことなど
2度と無いだろう
(…イヌピー……オマエの側には…心から笑い合える相手はいるのか…?)
ガラスの中に閉じ込められた雪景色を見つめながらそんな事を考えていると
バスルームのドアが開く音がした