第14章 東京卍リベンジャーズ・九井一
その日の夜中
九井に一本の電話が入った
昨日の交渉相手が
警察に逮捕されたという知らせだった
(……危なかった……あのまま関わっていたら…ウチも芋づる式に引っ張られる所だ…)
九井は車を飛ばし、昨夜の店へ行くと
ちょうど仕事が上がった女を空いている個室に呼び出した
「…オマエ…知ってたのか?」
『……今回の件は…たまたまあの男の悪い噂を耳にしてた……でも、何も知らなかったとしても返事は同じよ………私は…お金では動かない…』
女はそう言って
薄いクラッチバッグからゴールドのシガレットケースを取り出した
口元に意味深な微笑みを浮かべ
ケースを開いて九井に差し出す
『………自分の相手は…自分で選ぶの…』
「……」
九井が黙って首を横に振ると
女は美しくネイルが施された指先でタバコを一本取り出し
ケースの蓋をパチンと閉めた
装飾の付いた細いライターで自分のタバコに火をつけ
フーッと煙を吐き出した後
女は『…で?』と続けた
「…?」
『……アンタみたいな幹部クラスの男が…末端の店の従業員にわざわざそんなくだらない話をしに来たの?』
女の言葉を聞いて
九井はふと我に返った
彼女の言う通り
そんなことをする必要などまるで無かった
「………別に……そういうワケじゃない…」
『…じゃあ…何の用?』
「……」
(……何の用…?……確かに…何でオレはここに来たんだ?)
頭の中が少し混乱していた九井の目を
女は真っ直ぐに見つめた
『………昨日のこと……謝りたいなら聞くけど?』
全てを見透かしたような彼女の瞳を前に
九井は抗うのは無駄だと悟った
「………ハァ………そうだな…………昨日はオレが悪かった…」
素直に謝罪した九井を見て
女は妖艶に笑った
『………じゃあ……お詫びに家まで送って…?』