第9章 東京卍リベンジャーズ・灰谷兄弟
「…もう一緒にはいられない…」
竜胆から別れ話を持ちかけられても
レイナは引き下がらなかった
関東事変の責任を取り
2度目に捕まった竜胆に対して
彼女は何通も手紙を送り、鑑別所を出るまで実際に待っていてくれた
けれど
そんな彼女さえも竜胆は突き放した
手紙の返信を書くことはなかったし
出所後、考え直して欲しいと申し出たレイナにもワザと冷たく接して
別れを決定的にした
気持ちを残したままの別離には、想像していた以上に長い間苦しめられたが
その後、全てをふっ切るように渡米したレイナの活躍を噂で耳にする度に " あの選択は間違っていなかったのだ " と何度も自分に言い聞かせて
竜胆は何とか乗り越えることができたのだった
長い年月が経ち
彼女と再会してからも
竜胆の気持ちは変わらなかった
むしろ、別れを告げたあの時とは比べようもない程に
自分の手は汚れきっている
今さらレイナとヨリを戻すことなど
できるはずがないと分かっていた
でも、彼女と再会した夜
数日のうちに離れた所へ引っ越すつもりでいることを聞いた竜胆は
その話をすぐに受け入れることが出来なかった
困っているレイナの手助けをして
普通に生活ができるようになったらもう二度と関わらない
その決意の元
彼女に自分のマンションでしばらく暮らさないかと提案した
たとえ昔のような関係に戻れなくても
もう少しだけ、彼女の側に居たかった
ほんの短い間
レイナの声を聞いて、懐かしい笑顔を見つめていられたら
それだけでいい
それ以上のことは絶対に望まない、と
本気で思っていたはずだったのに
気が付くと今夜
竜胆は彼女に口付け、その身体に触れていた
そのわずか数時間前に、自分がしてきた仕事ひとつ取っても
レイナには絶対に言えないようなものだったというのに
その汚れた手で彼女を抱こうとした自分に
竜胆は愕然とした
(……あの時、あんなに苦しい思いをして別れたのは……こうならないためだったのに……)
・
・
・
カラン、と氷の音がして
竜胆は我に返った
蘭の目の前のテーブルに置かれたグラス
入っていた琥珀色の液体は
いつの間にか無くなっていた