第2章 東京卍リベンジャーズ・柴八戒
大きなグローブトロッターを転がしたレイナが突然訪ねてきたのは
次の日の真夜中だった
仕事の打ち合わせでひとり京都に行っている柚葉に
オレの泊まっているホテルの部屋番号を聞いたらしい
部屋に入るなり『隆と別れて行くトコ無いから…今晩泊めて』と言ったレイナは
オレにすがりつくようにして泣き出した
驚いたオレは
とにかく彼女を宥めなければと
窓の側のカウチに座らせた
「…ケンカ…したの?」
声を絞り出すようにして聞くと
レイナは首を振る
『……聞いてくれる…?…八戒…』
オレが頷くと
彼女はポツリポツリと話しだした
今夜レイナはタカちゃんに
『モデルを辞めてずっと一緒に居たい』と言ったらしい
タカちゃんは
そんな彼女の事を"甘えている"と
まともに取り合わなかった
2人は口喧嘩になり
レイナは『もう別れる』と言って
荷物をまとめアトリエを飛び出して来たそうだ
仕事となると自分にも他人にも厳しいタカちゃんだから
ありそうなことだと思った
黙っているオレに
レイナは更に続けた
『……考えが甘いのは自分でも分かってたよ。怒られるのも当たり前。…隆はいつも正しい。………でも……正しくて…時々苦しくなるんだ………あの人の真っ直ぐな目は…私には眩しすぎる…』
「……」
『……この仕事、どうやって取ってるか…隆は知らないからさ…』
競争の激しいモデルの世界
熾烈な争いを勝ち抜くために
みんな必死だった
レイナが
今のポジションにのし上がるために
どれ程の犠牲を払ってきたのか
そして
この先も続けていくために
どんな覚悟が必要なのか
同じ業界で生きてきたオレには
愛する人を裏切るような形でこの仕事を続けていく位なら
全部捨ててタカちゃんの側にずっと居たいと願った彼女の気持ちが分かるような気がした
『……一番大切な隆のこと騙して……ホント、私は最低だよ…』
カウチの上で膝を抱えながら
レイナは静かに泣いた