第9章 東京卍リベンジャーズ・灰谷兄弟
レイナが退院してから1ヶ月程が過ぎたある夜
仕事を終えて事務所に戻ったばかりの時に、蘭の携帯が鳴った
液晶に彼女を表す偽名が表示されているのを見て
使われていない会議室へ入る
「どうした」
『……急に電話してごめんなさい…』
「大丈夫だ…何かあったのか?」
『……ぁ……少しだけ…声が聞きたかったの…』
「それだけの理由で電話なんか掛けてくる訳ないだろ…いいから言えよ…」
『……』
「…レイナ?」
『……声が聞きたかったのは…本当なの…………私………っ…』
「……」
『……ハァ………アナタに弱音なんか吐いてごめんなさい……でも…私……もう限界かも知れない…』
怪我による長期の欠勤と、記憶障害を理由に説得され
レイナは事故に遭う前に働いていたスポーツクラブ所属のダンスインストラクターの仕事を、半ば強引に退職させられていた
周りに頼れる知り合いも居なかった彼女は
母親を亡くし、本当に自分が天涯孤独の身になってしまったという事実を少しずつ実感していった
自宅だと言われた部屋に帰り、生活をしてみても
何も思い出せない
常に他人の家にいるようで
落ち着ける場所がどこにも無い
ここに居てはいけないような気がする
と、電話口の彼女は軽くパニックを起こしていた
退院後、環境に馴染めずストレスが溜まった時などにこのような発作が起こることがあるとレイナの主治医から聞かされていた蘭は
電話を切り、彼女のマンションへ向かった
玄関のドアを開けたレイナは
驚いたような顔で『…来てくれたの…』と言った
何か飲むかと聞かれたが
蘭は断った
「…それより…大丈夫なのか?」
『…うん。……電話でも言ったけど、声聞いたら落ち着いた。…迷惑かけちゃってごめんなさい…』
「…いや…」
レイナは潤んだ瞳で蘭を見上げ
そっと抱きついた
『…わざわざ来てくれるなんて……嬉しい…』
「……」
小さく震える背中に手を添えていると
次第に肩の力が抜けていくのが分かった
『……ありがとう…』
そう言って顔を上げたレイナは
普段の笑顔に戻っていた