第9章 東京卍リベンジャーズ・灰谷兄弟
別れた時のことに関しても
特に竜胆から聞かされた覚えはなかった
けれど
電話帳でレイナの名前を出しては
通話ボタンを押さないまま携帯を閉じる仕草や
2人で写っている写真を手に眠っている光景を何度も見かけていた蘭は
竜胆もとうとう彼女に愛想を尽かされたのかと
勝手に納得していたのだった
それから長い間、竜胆はずっとそんな調子で
レイナへの想いを引きずっているようだった
そんな弟が不憫に思え
蘭は何度か適当に遊べる女を紹介してやろうとしたが
全然乗って来なかったのをよく覚えていた
「…理由なんか忘れた。……でも、別れ話をしたのはオマエの方だ…」
それを聞いた彼女は
『……ぇ…』と言ったまま固まってしまった
「そんなに驚くことないだろ…"もう別れる"って、ウチから怒って帰っていったことだって何度もあったぞ…」
『……私…が…?』
レイナは悲しそうな顔をして俯いた
『……どうして…私……竜胆にそんな事言っちゃったんだろ…』
当然のことながら、彼女は蘭のことを弟の名で呼んだ
自業自得と言えばそれまでだが
その度に彼は酷い居心地の悪さを感じた
「……」
重苦しい空気から逃れたくて
時計に目をやる
「…そろそろ帰る…」
この間と同じようにレイナの前から逃げ出したい衝動に駆られた蘭は、ベッドの側の椅子から立ち上がった
『……ぁ……ウン……今日はどうもありがとう……忙しい中わざわざ来てもらってごめんなさい…』
「……別に…気にするな…」
『…っ…竜胆…』
ドアに手を掛けた時
案の定、彼女は言った
『……また…来てくれる?』
「……」
" 今度こそ断らなければ "
頭では分かっていた
けれど
「……あぁ……時間見つけて…見舞いに寄るワ…」
彼の口は
何故か今回も勝手に動いてしまうのだった