第9章 東京卍リベンジャーズ・灰谷兄弟
昔の記憶を手繰り寄せながら
蘭は思い出したことを少しずつ話し始めた
竜胆は兄に対して彼女の話題をあまり口にしたがらなかったため、詳しい身の上などはよく分からなかったが、レイナは当時ストリート系のダンサーだった
クラブ主催の大会などでいつも優勝しているような、その界隈では割と有名人だった彼女に
ロアの近くで知り合って仲良くなった。と
初めて家に連れて来た時、蘭は竜胆から聞かされたような気がした
ダンサーらしくB系のカジュアルな服をよく着ていて
くっきりした顔立ちをキツめのメイクで更に際立たせていた
部分的に色を抜いた長い髪に、強めのスパイラルパーマをかけていたり
コーンロウやツーブロックにしていたりと、とにかく目立つ女で
蘭はそんな弟の好みを、少し意外に感じていた
集まったギャラリー達に遠巻きに見守られながら
閉店後のショーウインドーを鏡代わりにして練習しているところを見かけたことも何度かあったが
ダンスに興味の無かった蘭の記憶には、細かいことは残っていなかった
彼女個人についてはその程度しかなく
他に知っていることといえばマンションへ遊びに来ていた時の2人の様子くらいだったので、蘭は分からない部分を適当に省きながら話した
最後まで真剣な表情で聞き終えると
レイナはホッとしたように言った
『…一緒に居た時のこと、少しだけ思い出した。…具体的に何をっていうわけじゃないけど……あの頃の、自分の気持ちみたいなもの…』
「……」
『…すごく、仲が良かったよね……私達…』
「……ん……まぁ…そうだな…」
『……アナタを…とても大切に想ってた気がする…』
「……」
『……でも…』
「…?…」
『……だったら…どうして別れたの?』
蘭を見る彼女の目は
微かに潤んでいた
「……」
2人が別れた理由は何だったのだろう
そんな事
当事者でもない蘭には分かる訳がなかった
ただ
"関東事変"の後、鑑別所を出てからはもう
蘭がレイナの姿を見ることは無かった