第9章 東京卍リベンジャーズ・灰谷兄弟
女の状態が落ち着くと
主治医は回診があると言って病室を出て行ってしまった
「…じゃあ、オレもそろそろ行くワ…」
蘭がそう言うと
女は寂しそうに表情を曇らせた
『……ハイ……ぁ……さっきは急に呼び止めてごめんなさい…』
「…いや……早く記憶が戻るといいな…」
『…ありがとう…』
「……」
(…厄介ごとに巻き込まれるのはゴメンだ…)
早くこの場を立ち去ろうと
病室のドアに手を掛ける
『………灰谷……竜…胆…』
「……」
『…思い出したんです…アナタの名前…』
振り返ると
女は涙をいっぱいに溜めた瞳で蘭を見ていた
『……別れた相手に…こんな事を頼むのは図々しいかも知れないけど……もし良かったら…また会ってもらえませんか?……一緒に居ると…もっと何か思い出せそうな気がするんです…』
視線を逸らすようにして
ドアに向き直る
「……」
『……竜胆……お願い…アナタしか頼れる人が居ないの…』
こんな何の得にもならないような頼みを
聞いている程ヒマじゃなかった
でも
何故か蘭は
" 自分の名前は竜胆じゃない。さっきの話は冗談だった "とは、彼女に言わなかった
「……分かった。…近いうちにまた来る…」
背中を向けたままそう言って
振り返らずにドアを閉めた
足早に階段を降り、駐車場へ向かうと
運転席に居た部下が慌てた様子で車の外へ出てきた
「…どうした…」
「…ぁ……いえ……お帰りが遅かったので何かあったのかと…」
「…別に…何もない…」
「…そう…ですか……失礼しました…」
後部座席のドアを開けながら
部下はホッとしたように続けた
「良かったです……蘭さんが向こうから来た時、一瞬…何かから逃げているように見えたんで…」
「……」
数日後
約束通り彼女の病室を訪ねた
手渡した見舞いの花束に嬉しそうに鼻先を埋めているレイナを
蘭はどこか複雑な気持ちで見つめていた