第9章 東京卍リベンジャーズ・灰谷兄弟
(…この女、からかってんのか?)
女の勢いに戸惑いを感じた蘭は
眉をひそめながら渋々名乗った
「……灰谷」
『………灰…谷…』
呟くように繰り返した女の瞳が
みるみる潤んでいく
「…?…」
『……すみません…ちょっと、一緒に来てください…』
女はそう言うと
突然蘭の腕を掴んだ
『〇△先生を呼んでください!』
「……あ、あの…どうなさいました?」
『お願いします!早く!』
彼女は受付に座っている女に向かって大きな声で言うと
頭を抱えてうずくまった
『…うぅ…』
「…オイ……離せ…」
苦しみだした女の手を振りほどいて、蘭はその場を立ち去ろうとした
けれど、一足早く騒ぎを聞きつけて駆け寄ってきた警備員達に囲まれてしまった
強引に突破することもできたが
人目の多い病院で下手に目立ちたくなかったため
隙を見て逃げればいいかと、しばらく様子を見ることにした
呼び出しを受け
白衣を着た主治医がすぐに駆け付けてきた
床に膝をついて女の顔を覗き込む
「…織月さん頭痛い?…病室に戻りましょう…」
医者は車椅子を押して部屋へ戻るよう看護師に指示した
『…先生……私…こちらの灰谷さんと…昔、お付き合いしてたそうなんです…』
「えっ…本当ですか⁉︎」
「……いや…オレは…」
「とにかく…アナタも一緒に来てください!」
「……」
周囲からの好奇の視線が集まっているのを感じた蘭は、観念して車椅子の後ろからエレベーターに乗り込んだ
病室の外の廊下で
レイナの主治医は蘭に事情を説明した
彼女は先週末
母親と共にタクシーに乗っていて交通事故にあい
一時的に記憶を失っているようだった
持っていた身分証から
住所や名前は分かったが
母親はその事故で死亡
母子家庭だった彼女は他に近しい親戚も居ないらしく
とても困っていたのだと医者は言った