第9章 東京卍リベンジャーズ・灰谷兄弟
『…あのっ…』
小さな声にゆっくりと振り返る
勝気そうな黒い瞳
その女の顔には見覚えがあった
「……」
『…突然すみません…』
そう言って女が近付いてきた時
蘭はようやく古い記憶を思い出した
昔の印象とだいぶ雰囲気は違っていたが
彼女は、まだ兄弟2人で六本木を仕切っていた十代の頃に弟の竜胆と付き合っていた " レイナ " という女だった
何故こんなに時間が経った今でも覚えているのかというと
当時、竜胆が家に遊びに来ていた彼女の名前を事あるごとに呼んでいて
側で聞いていた蘭がノイローゼになりかけたからだった
『…私たち……どこかで会ったことありませんか?』
古臭いナンパの常套句のようなセリフを言いながら
彼女は蘭を見上げた
(…あの頃は派手なメイクをしていたが…素顔も割と整ってんだな…)
そんな事を思いながら
蘭は言った
「…おいレイナ…昔付き合ってた男の顔も忘れたのか?…白状な女だなぁ…」
冗談で言ったのに
女は一向に笑わなかった
「……」
(……は?…コイツこんなノリ悪い女だったのかよ……竜胆、かなり引きずってたけど…別れて正解だわ…)
何とも言えない間があってから
女が少し慌てたように言った
『私のこと、知ってるんですね⁇』
「…そりゃ、知ってるけど…」
『あなたの名前、教えてもらえませんか?』