第8章 東京卍リベンジャーズ・乾青宗
雪は、夜の間中ずっと降り続いたらしく
翌朝の道路は凍結していた
必然的にライダーの少なくなるこんな日は
昨日とは打って変わって客もまばらだったため
ドラケンも乾もそれぞれ預かっている単車のメンテナンスに集中した
夕方になり、先に手が空いた乾は
カウンターのイスに座って、在庫表を見ながらパーツを発注するFAXを書き始めた
店内があまりに静か過ぎて、小さな音でラジオを付けると
聞いたことのある曲が流れてきた
《〜♪》
何年か前に流行ったクリスマスソング
" ずっと側に居たはずの大切なあの人は 今どこで何をしているの "と歌っている
何気なく聞いていたこの曲の歌詞が失恋を綴ったものだったことに
乾は初めて気が付いた
ふと顔を上げると
ウインドーの向こうに
灰色の空と
アスファルトの端っこで溶けかけている薄汚れた雪が見えた
「……」
寒々しいその景色を見つめていた乾は
自分の左手に視線を移した
"……もし…良かったら………家まで…手、繋ぎませんか?"
" 寂しそうに見えたから " と、差し出してくれた彼女の手
冷え切ったその小さな手が、乾には何よりもあたたかく感じられた
カウンターから立ち上がった乾が、入り口のドアを開けると
全身を冷たい空気が包む
ケーキ屋の前のワゴンには
昨日と同じようにサンタクロースの帽子をかぶったレイナの姿が見えた
けれど
通りを歩く人たちの様子は、昨日とはまるで違っていた
クリスマスイブの魔法が解けた街は
年末へ向かって慌ただしく進んでいく
まるで彼女のことなど見えてもいないかのように
人々はワゴンの前を早足で通り過ぎていった
「……」
乾はタイヤを外した単車の側にしゃがんでいる大きな背中に声を掛けた
「………あのさ…ドラケン…」
「……」
「……なぁ…ドラケン…?」
「……」
「…ドラケン……ケーキ食…」
「分ーーーかったよ」
「……っ…」
ドラケンは呆れたような顔で乾の方を見ると
「…付き合ってやる。……でも2個は買うなよ?」と言ってニヤリと笑った
乾は笑顔で外へ出ると
店の横にある自販機であたたかいカフェオレを買い
それを持ってケーキ屋の方へ歩いて行った