第1章 呼び出しを食らいました
お昼を食べての午後の授業中。医務室に居るであろう硝子に携帯へと連絡を受けた私は、教室での授業を抜け出して医務室に向かっていた。
「負傷者ってもんじゃないんだけど……まあ、実際に見たほうが早いな。来てくれ」と電話越しに言っていた硝子。なんだか歯切れも悪く説明がしにくい状況なのは分かる、どういう事なのか説明も無いから私も何が何だかさっぱり分からない状態で医務室へと走って急いでいた。実のところ徒歩で行きたい、だって苦手な数学の授業であったから。時間稼ぎしたくとも、緊急事態…命に関わることならば急がないと…(間に合いそうもない場合は硝子が治すだろうけれどさ!)
階段を駆け下りすぐそこの曲がり角を…、という所で太ももに何かが当たる。
ばす、と当たったそれは薄い水色のパーカーにカーキ色の半ズボンの子供。体格差故に子供の方が私より軽くて押し退けられ、前方で尻もちを着いて転んだ。
『えっ、なんで高専に子供……!?じゃなくて、君大丈夫?』
学校は学校でもここは高専。呪術師の学校。私にぶつかって転んだ子は見た感じ義務教育前の幼児…年長さんくらいかな……小学生に入るかどうかってくらいの背丈の男の子。
尻もち着いて見上げる子は白い短髪に青い眼。どことなく誰かさんに似てるんですが……?
しゃがみ込んで手を差し出すと、男の子はちょっとスネた顔しつつ口を尖らせ、黙って私に手を伸ばしかけた。けれども私の向かおうとした曲がり角の先からの足音、男の子はそっちを振り返ってすぐに私を向く。がし、と小さく柔らかい手で私の手をしっかり握りしめて立ち上がった。
「おねえさん、俺を連れて早く走って!」
『えっ』
「えっ、じゃないよ、ウスノロ!あのオジサンに俺、変な事されちゃう!」
怒ったように叫ぶ少年。
至近距離の少年から、遠くからこちらに向かってくる"オジサン"。それは速歩きでやって来る夜蛾学長。
えっ学長……?学長子供に何しようとしてんですか?
私の後方へと引っ引っ張ろうとする少年の手をこちらからもぎゅっと握りしめ『後ろに隠れてて!』と少年を守り、やって来る学長に事情を聞こうとそのまま近付く一人の大男を待ち伏せた。
『夜蛾学長、このちょっとクチの悪いイタイケな少年に何しようとしてんですか、事案ですか』