第6章 パーティーを抜けて出久くんと深夜のスローダンスをする話
軽く乾かされた自分の身体がそっとベッドに寝かされる。緑谷の腕が離れるが、秘多は透かさずその手を掴んだ。厚かましいと思われても、やっぱり今は離れてほしくない。
『もう少し、触れていたい…』
「…辛くない?」
隣に腰掛けた少年に秘多は首を横に振った。傷だらけの手の平を頬に持って行き、甘えるように摺り寄せる。またいつ触れられるか分からないぬくもりを、ひたすら記憶に留めるように。
『出久くんは、もうしないの?』
「なっ…!」
『……ダメ?』
図星を指されたのか、緑谷の顔が赤く染まった。長い間と反応からして、多分まだ足りてないと察せられる。あれだけがっついておきながら、今更なに遠慮を……。
『…もう一回、ダメ?』
「聞き直さなくていいからっ…!き、君はっ…もっと自分の身体を大事にしてーーっ!?」
それ自分で言う?右腕を見ながら、秘多は妙に素直じゃない緑谷の腕を強引に引く。引っ張った勢いで身体をベッドに沈ませると、その幅広い胸板の上に突っ伏しながら彼女は意地悪く見下ろした。
『ふふっ、一瞬たりとも傍を離れたくないんじゃなかった?』
「うっ……」
ムードに流されて自分で言った言葉を思い出し、無性に恥ずかしくなる緑谷が目を逸らしながら口籠る。そして暫く考え込んでから、悔しそうにこう呟いた。
「早起きして帰るって、約束してくれるなら……」
その言葉に、秘多はわざとらしく考え込む素振りを見せる。約束とかあまり得意な方じゃないけどーー。
『んー……、努力はしてみるかな』
「もうっ」
END