第5章 雨の良い雰囲気を激情した出久くんと秒でブチ壊す話
『私は、絶対に…出久くんじゃないと、嫌だよ……君以外の、人となんて考えられないっ』
「密ちゃん……」
声を震わせる彼女の手を引き、その身体を緑谷が抱きしめると、何処か安堵したように大きく息を吐いた。それから「ごめんね」といつもの優しい声色が戻り、秘多にもしみじみと安心感を覚えさせる。
彼のちょっと嫉妬した反応が見たいが為とはいえ、たった一つの偽言で一生嫌われたらどうしょうと、正直怖くてならなかった。何はともあれ、本当に良かったっ…。悪ふざけでも、あんな嘘はもう付かないと一応心に留めておこう。
「…感情任せとはいえ、き、君をこんなにするなんて、本当にどうかしてたっ」
『ううん、私が不用意にあんな嘘話をしたせいだから』
「て、でも…密ちゃんをあんな乱暴に、僕はっ」
誤解が解けたは良いものの、緑谷はさっきのまでの行いに深く反省しており、ぺこぺこと頭を下げ続けている。それはそうと、乱暴だってことは自覚してたんだ……。
そんなコミカルな彼を見て、心にゆとりが出来た秘多は目の前の広い胸板に擦り寄った。
『平気、寧ろ怒ってくれて嬉しかったよ。それに、ちょっと乱暴なくらいも、好きだし……なんて』
「へっ?」
咄嗟に出た自分の発言に、緑谷は驚愕し一瞬固まる。そんな初めて異常性癖者を見るような顔をしなくても…。変に誤解しないことをちょっとばかり願う。
『ねぇ……もっと、君に触っていい?』
「あ、う、うんっ…!好きなだけ、どうぞっ」
それ、あまり言わない方がいい…、と注意を払おうとした秘多だが、考えるより先に身体が動き、自分から緑谷を口づけた。
最早習慣でしかない戯れが濃密になるに連れて、呼吸に熱がこもり始める。先の前戯とはまた違い、抱き合いながら優しく粘膜を食み合う感覚はいつにも増して情熱的だ。
「密ちゃんっ…」
溢れる吐息にまたぼーっとしてくる。もっと欲しいと、緑谷は組み敷かれている秘多の下唇を甘噛みしながら、その細い腰に手を置く。そしてそれを悟ったように、彼女は自身の腰部をズボン越しの熱に押し付けてから薄く笑って見せた。
『出久くん……欲しい♡』
不意打ちに煽られ、恍惚とした口から呻き声が漏れる。たがしかし、それを負けじと苦笑う少年は密かにこう囁くのであった、「…覚悟してね」と。