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緑谷出久と裏の青春をするシリーズ

第9章 オリジン組メンバーの眼を盗んで出久くんと濡れた色事に耽る話


『「……」』

今、あっちが周囲の音に耳を澄ましているように、こっちも全神経を研ぎ澄ませる。まるでホラー映画の中にいるような感覚で心臓を異常なまでにバクバクと高鳴らせ、気付かれないことをひたすら祈るばかりだった。

「「……」」

ヒィーンーーー

暫くが経ったその時だった。何処からともなく聴こえてくる甲高い声音に全員の意識が向く。

ヒィーンーーー

雄鹿の鳴き声だ。山脈が囲むこの地では当然自然も多く、野生動物との遭遇は珍しくない。運が良ければたまに中庭で草食む姿を見かけることもある。確か今は繁殖期だったか…。その鳴き声は一回に止まらず、仲間に呼び掛けるよう一定のペースを保って何度も発していた。

「…鹿の遠吠えか。わりぃ、なんでもなかった」
「最初っから聞くなクソっ」

自然に助けられ二人揃って胸を大きく撫で下ろす。とは言え、油断は決して出来ない。洞察力が鋭い彼らがいる前では特にだ。幸いなことに温泉の利用終了時が近き、そろそろ閉まる頃だと先に気付いた轟が浴場を出て行く。そして爆豪も、若干カリカリとしながらも後を追うようにその場を後にしたのであった。

「はぁ……やっと行ってくれたみたいだね」

完全に退出するまで、全くと言う程生きた心地がしなかった。一時はどうなるかことかとアドレナリンを迸らせながら思ったが、どうにかやり過ごせたようだ。お互い顔を見合わせるや否や、ぴたりと埋め込まれた熱が程なくして引き抜かれると、途端に寂しいような気がして秘多は離れたくないとばかりに抱き付く。

『んはぁ…♡ごめん、ね…あと、が……』

甘い余韻に浸ってから、謝る秘多に対し緑谷も同じ声量でこっちもごめんと呟き、傍に寄り添うようにして抱き返した。水の重さと重力によって知らぬ間にズレ落ちた和装とタオル。一糸纏わぬ肌色に刻まれた所有印は、各々が私利私欲を満たす為に付けたものである。

「密ちゃん締め付け過ぎだよ。僕の方がヤバかったんだからっ…」
『でもっ…とても、ゾクゾクしたね…♡必死な出久くんも、可愛い…』
「…そんなに叱られたい?」
『うん、叱って…』

悪戯っ子の愛犬ような上目遣いで、何の躊躇いもなく素直に答える。こう言った駆け引きに中々勝てなくて、悔しそうに口を噤ませた緑谷がしばし黙り込んだ。
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