第1章 二人の悪戯(甘)●河田ナホヤ、ソウヤ
恐怖心もあったが、二人の身の安全を確認したい気持ちが勝り、リビングの方へと足を進めていく。
リビングも当然のごとく真っ暗だった。
10月末の19時台では外も暗く、カーテンを閉め切っているのか街灯などの明かりも入ってこない。
「ナホヤ君、ソウヤ君・・・?」
耳元でないと聞き取れないような声で二人の名前を呼びながら、暗闇の中で何とか二人の姿をとらえようと目を見開く。
早く会って安心したい・・・。
そう思った途端、フッと何かが背後を通り抜ける。
その気配にハッと振り向くが、この暗さで何も見えない。
次第に恐怖が心を支配し始め、この状況から一秒でも早く抜け出したいと思い、首を前に向き直すと・・・
夢の前に顔のただれた、血だらけの男性が立っていた。ぼおっと不気味に青白く光っていた。
「ㇶ・・・っ」
一瞬息が止まったような感覚がした。
人間、一気に本物の恐怖を感じたときは声が出ないのだ。
間もなくパッと急に視界が明るくなり、聞き覚えのある笑い声が耳に響いていた。しかしそれはすぐに遠くなり、消えていった。
全身の力がフッとなくなるのが分かった。
気を失ったのだ。
誰かに抱きとめられる感覚と自分の名前を何度も呼ぶ声が、完全に気を失う直前に夢の心を安心させた。
ー22時「目覚めないね、大丈夫かな・・・」
ソウヤがナホヤに確認するように言う。
「3時間か・・・」
腕を組みつぶやくナホヤ。
「まぁでも見てみろよ、気持ちよさそうに寝息たててるぜ」
いつもの余裕のある表情を弟に向ける。
「確かにそうだね、気を失ったときは青ざめてたけど今はだいぶ顔色もいいね」
とソウヤ。
気を失った直後、部屋まで抱きかかえ、ベッドに寝かせたはいいが、その後はどうしていいか分からず二人はこの時間までただ夢の傍に付いていた。
ナホヤは時々夢の髪を撫でたり、軽く肩を揺すり20分ごとに名前を呼んだりしていた。冷静に、ただ夢が起きるのをベッドの端に座り待っていた。
一方ソウヤはベッドの傍の椅子に座ったり、立ち上がったりを繰り返し、しきりに夢の顔を心配そうに除いては、「死んでないよね・・・?」「大丈夫かな・・・」と堂々構えの兄に何度も聞いていた。