【R18】 Begin Again【安室透/降谷零】
第53章 Epilogue ☆
夢を見た。
あの頃、アメリカに渡ってしばらくの間毎日見ていた夢を。
スポットライトを浴びて、目の前にいるファンは全員外国人。
わたしが使う言語も英語で、最初は客席は満員なのにひとつ、またひとつと空席が出来ていく。
わたしなんてちっぽけな存在で、そのうち忘れられる。
零…助けて…
零を置いて一人で海を渡ったのに、今にも崩れ落ちそうな床を歩いている気分になる。
零…
何度もそう呼んで、ハッと目を覚ますとそこにはもちろん零の姿はない。
あるのは無機質な部屋と、一人にしては広すぎるクイーンサイズのベッド。
そう。あの頃何度も見たこの夢…
わたしは、恐る恐る目を開いた。
視界に入ったのは、だだっ広いクイーンサイズのベッドではない。
「おはよう」
零の、優しい笑顔だった。
「おは…よ…」
朝起きて、1番に視界に入るのが零の笑顔なんて…
その尊さに、わたしの目から涙が溢れた。
「どうした?泣いてるのか?」
「嫌な夢見たの…」
そう言うと、零はわたしの身体を抱き寄せて、頭を撫でてくれた。
零の体温、零の匂い、零の手のぬくもり、わたしの前髪を揺らす零の吐息
全部、本物だ…
「でも、起きて零がいて…嬉しくて…幸せで」
「これから、毎日こうして起こしてあげる」
「毎日?」
「あぁ。毎日。この部屋で。」
セミダブルベッドが、もっと狭ければよかったのに。
そう思ったのは初めてかもしれない。