【R18】 Begin Again【安室透/降谷零】
第51章 優しい彗星
安室side
昨日のライブ終了後、スクランブル交差点に立ち尽くしていた僕に、藤亜蘭は言った。
「Lila、明日の夕方の便で日本を発つらしい。
成田、JL058便だ。
一応、伝えておくよ」
今は1日経った昼過ぎ。
今日の夕方の便ってことは、もう空港にいるはず。
つまり、もうリラはきっとあの家にはいないだろう。
そう思い、僕も自分の荷物を引き払おうと、約1ヶ月半ぶりにリラと暮らしたあの家に向かった。
久しぶりに来ると、つくづく高級マンションだ…とその高いタワーを見上げてしまう。
きっともう、こんなところに住むことはこの先一生無いな…
そう思いながら、よくリラと手を繋いで潜ったマンションのエントランスに足を踏み入れた。
鍵を差して家の中に入ると、懐かしい匂いで胸がいっぱいになる。
ほんの1ヶ月前までは、ここでリラと幸せな日々を過ごしていたのだが、あれは幻だったのかもしれないな…
そんな感傷に浸る僕を嘲笑うかのように、現実を突きつけられる。
部屋のクローゼットは、ちょうど半分
リラの荷物が入っていた部分だけごっそり抜けていた。
それが、確かにこの部屋で僕とリラが2人でいたことを、ちゃんと証明している。
空っぽになったチェストの中を見て、力無くため息を吐いた僕は、自分の荷物をトランクに詰める作業を始めた。
と言っても、風見がタイミングを見て頻繁に荷物を取りに来てくれていたから、残りはそんなに多くなく、トランク2つでちょうど良かった。
リラとの思い出の部屋での荷物の整理は、ものの1時間であっけなく完了してしまった。
「…帰ろうか」
これ以上ここにいたら、ますます自分が情けない人間になってしまうような気がして、名残惜しくもこの部屋を立ち去ろうとしたとき、ローテーブルの上に置いてある封筒が目に入った。
そこには、リラの字で
「降谷零様」
と書かれている。
考えるよりも先に、その封筒を手に取った僕は、封筒の中に入っている便箋を取り出し、そっと中身を開いた。