【R18】 Begin Again【安室透/降谷零】
第7章 君との距離
安室side
危なかった。
「…今日、わたしがこんなふうに楽しく歌えてるのは、安室さんがいてくれるからだよ」
そんなことを、じっと目を見ながら真剣な表情で言われ、僕は思わずリラの頬に手を添え、唇を奪いそうになった。
慌ててリラの頬を指でむに…とつねると、リラの整った顔がすこしマヌケな顔になる。
それが、なんだかちょっと嬉しくて思わず笑ってしまった。
「…こんなLilaの顔、きっとここの会場に来てる人はほとんど知らないんだろうな」
そんな、独占欲丸出しの言葉が口を突いて出てくる。
リラは少し戸惑ったような顔をして何か言おうとした。
が、ちょうどスタッフが呼びに来てまたライブへと戻っていく。
Lilaとして。
バカだな。僕は。
リラのすこしマヌケな可愛い顔も、すっぴんも、寝起きの顔も、ランニングしてる時の必死な顔も全部、きっと僕以外にも見せてるのに。
寝言で言ってたヒロという男にも、すこし前に振られたと言っていた男にも。
僕だけなわけがない。
くしゃ…と頭を掻いてため息をつき、また自分ミッションを復唱する。
リラを守るのが、僕のミッションだ。
ライブも終盤に差し掛かった。
残すはアンコールのみだ。
2時間、あっという間だな…
それほど、リラの人を惹きつける力は凄まじい。
あの脅迫状はブラフだったか。
それに越したことはないけど、はやくストーカーを捕まえてやらないと、いつまで経っても不安の中で過ごさなくてはいけない。
それに、きっとリラも、僕の家を早く出て自分の家に帰りたいはずだ。
そして僕たちは、また他人に戻る。
アンコールが始まり、リラの歌っているところをまた見つめる。
きっと、他人に戻ったらこんな風に袖からリラの歌う姿を見ることはなくなる。
何なら、客席で生の歌を聴くことも、多分無い。
焼き付けておこう。
楽しそうに歌うリラを。
僕の大好きなこの歌声を。
そう思いながら、リラの頭のてっぺんから爪先まで余す所なく目に焼き付け、一瞬の吐息遣いすら聞き逃さないように耳を澄ました。